GaN HEMTの特性シミュレーション

【はじめに】
GaN HEMTの特性であれば、フリーソフトLTSPICEを使って、等価回路から簡易計算することができます。有料でよければ、SynopsysSilvacoNextnanoを用いると、より正確に計算できます。これらのTCADが使えれば、海外の履歴書にも書けます。今回はSilvacoを使ってみたいと思います。SilvacoはVCSELなど、光デバイスや放射線照射の計算もできます。

今回はGaN HEMTを紹介したいと思います。Exampleが充実しているので、GaN FETの例7を使って、簡単に説明します。デバイス構造としては、Al0.05Ga0.95N基板/GaNチャネル(2DEG)/Al0.23Ga0.77N障壁層で構成されています(なぜGaN基板じゃない?)。GaN HEMTは通常ノーマリオンデバイスですが、ゲート電極下にp型GaN層を設けることでGaNチャネル層に2DEGが誘起されず、ノーマリオフ化が可能となります。


【素子構造】
素子構造はganfetex07_0.strを参照ください。tonyplotで表示できます。tonyplot-プロット-表示方法で、「等高線図」を選択します。その後、メインメニューから、Net dopingを選べば、不純物濃度の2次元カラー図が得られます。electron densityで電子濃度、E fieldで電界分布が得られます。conduction bandを選び、ツール-カットラインで、ゲート電極下にラインを引けば伝導帯ミニマムのバンド図を見ることができます。自発分極とピエゾ分極により、GaN層中のAlGaN障壁層側が0 eVを下回っており、2DEG層が形成されていることが確認できるかと思います。

素子破壊時の電界分布はganfetex07_1.strをご参照ください。ゲート電極下のドレイン側に電界集中する場合が多いですが、今回はドレイン電極下に電界が集中しているのが分かります。その電界の値がGaNの絶縁破壊電界強度を超えると、素子が故障(アバランシェ破壊)することになります。


【電気的特性】
ドレイン電圧-ドレイン電流の特性はganfet07_2.logを参照ください。ゲート電圧5 Vで~500 mA/mmの大きいドレイン電流が得られています。ドレイン電圧を大きくすることで電流が下がっていますが、これは熱による影響(LAT.TEMPパラメータ)によるものです。実デバイスでは、ダイヤモンド基板を用いると電流低下を抑制できます。また、ゲート電圧1 Vで、ドレイン電流が殆ど流れていません。p型GaNゲート膜により、ノーマリオフ化できていると言えます。

素子破壊耐性はganfet07_3.logを参照ください。オフ時のリーク電流~10 uA/mmは、結構大きいかと思います。今回の場合はトラップによって決まるようです。GaNチャネル層に18乗台のトラップ密度(MOCVD法で用いる石英管起因の意図せず混入されるSi不純物か、n型ドナーである窒素空孔)が想定されていますが、現在なら16乗台まで低減できるのではないでしょうか?その場合、オフ電流が大幅に下がるかと思います。破壊耐圧870 Vは、GaN HEMTとしてはかなり大きい数値です。実験で実現するのは結構難しいんですよね・・・


【コード】
go atlas
2次元電子デバイスシミュレーターは、ATLASを使います。

mesh
どれくらい細かく分割して計算するか、に影響します。チャネル層や電極付近は細かめに設定しておいたほうが良いです。

region
デバイス構造に相当します。materialで材料を選択します。SiやGaAs、SiC、GaNなどは既に登録されているので、そのまま使えます。Ga2O3などの新規材料は、user.materialとして自分で材料パラメータを入れて設定できます。

electrode
電極の範囲を設定します。

doping
不純物濃度を設定します。GaN HEMTの場合、分極でキャリアが誘起されるので不純物ドーピングが不要ですが、今回はp型GaNゲート層があるので設定されています。

model
どんな計算モデルを使うか決めます。計算目的によって変わるので、マニュアルをご参照ください。各モデルの理論式を自分で見ておいたほうが良いです。

contact
電極材料を設定します。材料名は不要で、その代わりに仕事関数を入れます。

trap
不純物や点欠陥によるキャリア補償などを考慮したり、登録されていない不純物を設定する場合に使います。

thermcontact
GaN基板の熱伝導率です。

method
おまじない、と思って必ず入れています。(理解できていません)

output
tonyplotで表示したいものをいれておきます。

ここまでがデバイス構造や計算方法などの設定になります。下記は、実際に計算したい特性領域で計算させます。

solve
計算します。

tonyplot
2次元表示、グラフ表示します。


【おまけ】
メサ型Ga2O3ショットキー障壁ダイオード(SBD)の電界分布は下図のようになります。アノード電極端に高い電界がかかっており、バイアスを上げて絶縁破壊電界強度を超えた時、ここでデバイスが破壊してしまいます(図上)。そこで、アノード電極にSiO2膜を使ってフィールドプレートをつけると、フィールドプレート電極端下に電界集中が分散され、アノード電極下の電界強度が緩和していることが分かります(図中)。さらに、メサ構造を導入すると、アノード電極下の電界集中がより一層緩和されています(図下)。したがって、フィールドプレートとメサ構造を用いることで、Ga2O3 SBDの高耐圧化が期待できます。